Dark to Light
                                
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 「つづみさん、轍生てつきさん……」

学コに戻ると皆の出迎えを受けた。
くそ。何て言えばいんだよ。

 「……やっぱ、すごいっすよねー!」

えっ……。
皆が近寄ってきて、俺の顔をみて叫んだ。

 「如樹 紊駕きさらぎ みたかっすよ。如樹 紊駕相手に無傷なんて!」

……。
皆が歓喜の声に沸く。

 「これでS中も俺らの下っすね。」

 「で、最後は、何で?坡さんの得意の右ストレートっすか?」

 「……お、おうよ。如樹 紊駕なんて、へでもなかったぜ。」

轍生が俺を見る。
しかたねぇだろ。こういうしか、しかたねーじゃねーか。
くそっ!!このままじゃ絶対ぇ引き下がらねぇからな。
俺のプライドが許さねぇ。絶対ってやる。
如樹 紊駕め。

その日から、如樹の顔が頭から離れなかった。
冷めた、人を見下すような瞳。
蒼く澄んだ、人を見透かすような瞳。
全く物怖じしない、不遜な態度。くそっ、くそっ!!

 「サイキン、坡さんイラついてますね。」

どうしたんですか。との仲間の言葉。シカトした。
いらつきは増々つのっていく。
タバコをもみ消した。

 「坡さん!大変すよ。」

仲間の一人が転がるようにやってきた。
どうやらF中の奴らに誰かがられたらしい。

 「バカか。F中なんかに。」

 「行ってくんないんすか?」

は?
何で、俺が出張る必要があんだよ。ふざけんな。

 「自分で何とかしろっつっとけ。K学のメンツ潰すなってな。」

それどころじゃねんだよ、こっちは。
このままアイツにナメられたままじゃ。
何とかしてんねーと。

 「よぉ、イラついてんみたいだな。」

振り返ると、デコ分けした二ヤついた顔。凄御すざみだ。

 「てめぇら、いいこと教えてやろうか。」

声を張り上げた。

 「てめーらが頭って認めてる澪月れづき 坡はなぁ。」

思わせぶりに語尾をのばす。皆の注目を集めて、俺を指さした。

 「大ぼらふきだぞ。」

何言ってんだ。負けたからってほざくな。等、仲間が口々に騒いだ。
凄御は、お前らがどう思おうが勝手だけど。と、前置きをして言った。

 「こいつは、如樹 紊駕に勝っちゃいねーんだよ。」

……っ。
皆が俺を見る。うそだ。うそですよね。皆の目が言っていた。

 「じゃあよ、てめぇーらの前でもっかい如樹に勝ってもらえよ。」

凄御の勝ち誇った顔。
俺は我慢ならなかった。

 「そんなにゆうなら、てめぇも来いや!」

皆の前で、如樹 紊駕、もっかいってやんぜ。
タンカを切った。
轍生の心配顔。目を反らした。もう、後には引けない。
俺は、負けるわけにはいかねぇんだ。

 「如樹ぃ―――!!」

内心。もうあんなみっともねぇ姿は見せたくなかった。
如樹にも皆にも。
だから、いねーことを祈ってたのかもしんねぇ。

 「何だよ。 こんな、大勢でよ。」

 「ツラ、貸せよ。」

精一杯虚勢張ってみせた。
如樹は、何かを察したような瞳。あの時のように、即答拒否はしなかった。
無言で俺の後についてきた。
……二度も負けらんねぇ。

 「坡さん。早くっちゃってくださいよ。」

 「凄御、見返してくださいよ!」

坡さん、坡さん。皆の期待が俺を追い詰めた。
ここで負けたらメンツ丸つぶれだ。
負けらんねぇ。絶対ぇ、負けらんねぇ!!
俺は、俺はK学の頭なんだ!!

―――……。

俺は、薄く白い雲を張り詰めた青い空を見ていた。
すげぇ永い時間が経ったように感じた。
辺りは、すげぇ静かだった。

 「目ぇ、覚めたかよ。」

如樹が無傷で立っていた。轍生に顎をしゃくる。
轍生は、手を差し出してくれた。手を引かれる。全身に痛みが走った。
俺の当たりはことごとくかわされた。一つも決まらなかった。
腹と頬、内臓が痛ぇ。
如樹はおそらく実力の半分も出しちゃいねぇ。
……初めてケンカに負けた。

 「ちっ。結局干渉しちまったじゃねーか。」

如樹は独り言を呟いて、背を向けた。

 「……相手が悪ぃよ。大丈夫か。」

轍生は言った。
他の仲間は居なかった。
そりゃ、そうだ。俺は、負けた。負けたんだ。
悔しいけど、完敗だった。

それから、仲間の半分くらいは凄御にとられた。

 「リターンマッチ。やろうぜ。」

凄御の挑戦状。苛立ちのまま拳を振るった。
左鳩尾、右ストレート。地面をナメた凄御に足蹴り。馬乗りになって頬を張る。
如樹にられた痛みを、鬱憤を、凄御にぶつけた。
くそっ!くそっ!
凄御の顔がどす黒い血にまみれて、凄御が動かなくなって、ようやく。
俺は、手をとめた。
でも、苛立ちは、おさまることはなかった―――……。



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